WORKSHOP TITLE

透明な“何か” をつくろう

TEACHER

地村洋平 先生

美術家

REPORT

「インスタレーション」という手法

地村先生はガラスをはじめ様々な素材を使ったインスタレーション作品を発表されている美術家です。

「インスタレーション」という言葉をはじめて耳にする参加者が多い中、地村先生は自分の作品や制作過程の写真と映像を見せてくださいました。

制作過程の映像に映し出されたのは、工房でゴツゴツとした大きなガラスの玉をバーナーで炙ったり、炉に入れて熱したりを繰り返す様子でした。地村先生と5〜6人の補助の方が息を合わせながら、ガラスと格闘しています。その様子をしばらく見ていると、

バリン!!!!

…と、大きなガラスの塊は突然支えの棒から外れ床に落ち、割れてバラバラになってしまいました。がっっっっっっっっっっっくり、、、、、、、、、と、うなだれる地村先生の姿が映し出され、映像を見た参加者は、せっかくの作品が壊れてしまったことにとても衝撃を受けました。

しかし、もう一度同じものを作り直すことはなかった、と地村先生は話を続けました。ガラスの塊が床に落ちたときにできた、透明なガラスの欠片が床に飛び散った様子に美しさを感じた地村先生は、その様子を展示会場で再構成し「インスタレーション」作品として発表したと言います。期せずして割れてしまったことや、時間的制約によって作品が生まれたのです。
2014 ©Yohei Chimura / Courtesy of GALLERYAN ASUKAYAMA

説明を聞いてもなかなか難しい「インスタレーション」。さて、どんな授業になったのでしょうか?

 

「透明なもの」を観察してみよう

この授業では、教室にたくさんの「透明なもの」が用意されていました。それらは参加者が到着する前から床一面に並べられていて、教室に入るとその光景が、わっと目に飛び込んできました。

インスタレーションについての説明の後、まず参加者は、床に並べられた「透明なもの」に自由に触れて観察しました。地村先生の作ったガラスの作品をはじめ、ガラス瓶やペットボトルの切れ端、卵パックなど、いろいろな形や素材がありました。

黒い紙、カラフルなドットの紙、ライト
「透明なもの」と周囲の関係性を観察する

ある程度観察を続けたところで、地村先生は黒い紙とカラフルなドット柄が印刷された紙を配りました。
「透明なもの」自体だけでなく、その周囲のものによる影響も観察してみます。もともとあった白い紙の上で見るのと、新たに配られた黒い紙の上で見るのでは「透明なもの」はどう違って見えるのか。また「透明なもの」を通すとカラフルなドット柄はどのように見えるかなどを引き続き観察します。

さらに今度は、手のひら程度の小さなライトが配布され「透明なもの」に光を当ててみます。もう十分に観察したと思っていたのに、色々な角度から光を当ててみると「透明なもの」の更なる一面を発見できました。

観察を終えたあと、気がついたことを発表しました。

「黒い紙に置くと、透明なものがはっきり見えた!」
「カラフルドットの紙は、柄が歪んで見えた!」
「光をあてると影が模様のように床に映った!」

など、それぞれに発見がありました。

透明な工作をしよう

観察のつぎは、工作をしました。地村先生から伝えられた手順は、

①床に置いてある透明なカケラ(※)を2つ拾う
※アクリルでできたディスプレイ用の氷
②グルーガンのある机に持っていって、カケラをくっつける
③くっつけたカケラを床に戻す

を繰り返す方法でした。

床に戻したカケラは、他の誰かに拾われ、また他のカケラとくっつけられるので、参加者全員の意思が影響しあいながら透明なカケラは塊となり、形が変化していきます。

カケラ同士をどんな角度でくっつけるかは自由だったので、参加者はふたつのカケラの組み合わせ方を考えながら貼り合わせていきました。
(グルーガンは、高温で熱した接着剤で貼り合わせる道具なのでスタッフに補佐してもらいながら作業します)

途中で色のついたカケラが追加されました。
カケラを拾いくっつけ戻す、という行為を続けると、不思議な形の塊が床にゴロゴロとうまれていきました。

小さなインスタレーションを作ってみよう

ひとつひとつの塊が大きくなってきたところで、今度は、床に置かれている透明なカケラの塊が一番良く見える方法を考えてみよう、と地村先生から課題が出されました。

「透明なもの」を観察する時間に使った、白い紙、黒い紙、カラフルなドットの紙、ライトを自由に使って、4〜5人ずつのグループに分かれて考えました。

参加者が見せ方を考え配置することで、ただ床に置かれていたカケラの塊は、その周囲をとりまく空間を含めて、小さなインスタレーションへと変わっていきます。

例えば、カラフルなドットの紙を床に敷き、さらに立てて壁のように置くことで、塊のカラフルな部分と、床と壁のカラフルなドットが呼応しあったり、

塊の大きさに合わせた白い床面に対し、周辺は黒い紙を敷き詰めることで、その存在感を感じられたり、

塊の下からライトアップすることで、透明な素材の特性を強く感じさせる神秘的な雰囲気になったり、どれも自分が小さくなってこの空間の中に入ってみたくなるような、魅力的な小さなインスタレーションができあがりました。

「透明なもの」を交換する

最後に、授業の最初に観察した地村先生が用意した「透明なもの」や、みんなで工作した透明なカケラの塊などを床に並べました。

そして、参加者の持ってきた身近にある透明物(今回、持ち物として事前に連絡をしていました)と、並べられた「透明なもの」を交換しました。参加者は迷いながらも、各々気に入ったものを選びました。交換した「透明なもの」は授業の記憶として持ち帰ることができました。

 

この教室で起こっていたこと

今回のななめな学校4では、同じ授業を4回(1日2回×2日間)行ったのですが、実は前の授業の最後の状態が、次の授業に引き継がれていました。
参加者が教室に入って最初に目にした、床に置かれた透明なものたちのレイアウトは、前の授業の参加者がみんなで相談して決めた「インスタレーション」だったのです。

地村先生は、この最後のインスタレーションを「始まりのインスタレーション」と呼びました。授業の最後にみんなでつくる空間を「完成形」と位置付けるのでなく、次の授業の「始まり」と位置づけ、引き継がれていくものとして参加者とレイアウトを考えていたことが印象的でした。

参加者がみんなで考えた「始まりのインスタレーション」は整然と透明なものを並べた回もあればバラバラに配置した回もあり、また星形にした回もありました。「タイトルをつけると見え方が変わってくるかも」という地村先生のアドバイスをもとに、みんなでひとつのタイトルを決めた回もあれば、参加者がそれぞれに自分なりのタイトルを考えた回もありました。
↑「透明な☆」というタイトルに決定。

 

自分でも気が付かない間に、
自分は何かに影響している

この授業の中で示唆されていたインスタレーションの要素は「(透明なものという)対象物だけでなく、周囲までを含めて考える」ことや「他者の存在や行為も受け入れる」こと、「変化の流れの中の一部として、今が存在している」ことなどでした。

特に、この授業全体を通して、地村先生が教室の中で偶然起きたこともインスタレーションの要素として捉えていることがとても印象的でした。

ある回では、プロジェクターに誰かがぶつかってしまい、投影されているスライドが斜めになっていたこともありました。地村先生は、それすらも偶然の面白さとして捉えていて、そのままにしておこう、と授業を進めます。教室全体をインスタレーションとして楽しんでいる姿勢が感じられるワンシーンでした。

参加者(スタッフとして授業の補佐をしていた私自身も含め)は、この教室に一歩足を踏み入れた瞬間から、気が付かないうちに“何か”をつくることをしていたのかもしれません。

「自分でも気が付かない間に、自分は何かに影響している」
そんなメッセージが含まれた授業でした。

 

Text: Mamiko Saito

写真

地村洋平 さんのプロフィール

1984年、千葉県生まれ。
現在、東京芸術大学ガラス造形研究室で非常勤講師を務める。
ガラスを代表に様々な素材を用いたインスタレーションを発表。
第16回千葉市芸術文化新人賞奨励賞受賞。
http://yoheichimura.secret.jp/

ななめな学校4の授業 REPORT