古材を組み合わせて生まれる魅力を発見する
南房総市の工房にて、古材を使って家具を製作している木工作家の今井先生は、まずご自身の作品を紹介してくださいました。
それは、どこからどう見ても椅子なのですが、前脚と座面を担う曲面材と後ろ脚と背もたれを担う梯子のような材の2つのパーツからなる、見たことのないデザインの椅子でした。
今井先生は「これは、もともと別の機能を持っていた2つの器具を組み合わせて作ったんだけれど、何と何からできているかわかるかな?」と問いかけます。
参加者は「タイヤと梯子!」などのアイデアを出しますが正解は出ませんでした。
実はこの椅子は「火鉢と背負子」を組み合わせたものでした。
今井先生の工房には「火鉢や背負子」のように現代では使われなくなった機能の木の道具が沢山あって、それらに囲まれているとふと「火鉢を1/4にカットして、背負子と組合わせると椅子になるかも!」とアイデアが浮かぶと言います。勿論うまくいかないこともあるけれど、試してみたら背負子はもともと背中に背負うものだから体にフィットするし、火鉢も座ってみると座り心地抜群だったので、背負子と火鉢は「椅子」という新しい道具に生まれ変わりました。
「僕がやっているのは、もともとの道具が持っている機能や形の特性から、新しい魅力を探し出す作業なんだよ」と説明してくださいました。
直感で古材を3つ選び、
それぞれの材の特徴を観察する
「今日の授業ではみんなに古材の魅力を探して欲しいんだ」の一言とともに、いよいよ作業開始です。
教室の前方の机の上には今井先生が用意して下さった百個程度の古材の断片が並べられています。古材は樹種も色も形も様々で、表面と切断面で色が異なっているものや、何かの接合部だったのか特徴的な切り欠きがあるもの、竹の輪切りまでありました。
並べられた古材のなかから、直感で気になった材を3つ選びます。
そして、まずは選んだ3つの部材をよく観察し、それぞれをスケッチしてみます。
出来上がりのイメージをスケッチしてみる
次に、3つを組合わせたイメージ図も書いてみます。どちらの面を正面にするか、どの面とどの面を接するときれいに納まるかなどを実際に色々試しながら、いい案が浮かんだらスケッチで残します。
ここで、今井先生から2つの追加説明がありました。
一つ目は、今日の授業で使える接合部材は針金だけということです。ボンドも釘も使えないので、針金だけでどうすればうまく組み上げられるかを考えなければなりません。
そしてもう一つは、試験管を使ってもよいということです。古材だけではうまくイメージが掴めていなかったけれど、試験管を組合せて一輪挿しやペン立てを想像したことで、その機能性からカタチが決まっていく参加者もいました。
制作し、発表する
組合せのイメージがついたら、実際に制作です。危なくないように各部材の切断面や角に紙やすりをかけるところから始めます。全ての面を万遍なくやすり掛けするので、先ほどのスケッチでは気が付かなかった古材の表情が見つかるかもしれません。
「作業を通してイメージが変わったらどんどん変更していいよ」と今井先生はおっしゃいます。また、「もし何もアイデアが浮かんでいない人はまわりの友達のやっていることを参考にしてもいいよ」とも。「みんな別々のパーツを選んでいるから友達の作品を参考にしても同じものは絶対に出来ないし、友達のアイデアを<いいな!>と思っても、自分の持っているパーツに合わせてうまくアレンジしないと組合わないでしょ?それが、古材を扱う面白さなんだよ」と。
完成したらみんなの作品を並べて発表です。使っているパーツが一つとして同じものがないので、どの作品も違うのは当たり前なのですが、参加者の発想は千差万別でどれも個性あふれる素晴らしい作品でした。
古材も人も同じ!
今井先生は20代半ばまでバンド活動をされており、ドラマーとして活躍されていました。(未だに当時のメンバーで年に数回はライブを開催しているとのことです!)
当日の授業内容では無いのですが、事前の打合せの際に話してくださった言葉がとても印象的で、広く伝えたい内容だったので最後に記しておきます。
「バンドって全員が同じ個性だとうまくいかないんだよね。全然違ったタイプのメンバーが集まって、ボーカル、ギター、ベース、ドラムとそれぞれの役割で適材適所な個性を発揮することで魅力的になるんだ。古材もそれと同じで、似たものを組合せても面白くなくてさ、もともと何の繋がりもない、全然違ったものをいくつか組み合わせると面白くなるし、単体で見ると個性がないように思えた素材も別の材料と組合せた途端、これしかないじゃんってくらいぴったりはまって魅力的になったりするから不思議なんだよね。」
「古材も人も同じで輝ける場所や役割があるんだよ。」
Text: Yuta Hosoya