WORKSHOP TITLE

口だけで奏でる音楽
ヒューマンビートボックス

TEACHER

KAIRI 先生

BEATBOXER /
ARTIST

REPORT

ヒューマンビートボックスの大会で過去に三度も日本一となった実績を持ち、現在はアーティストとしても活動されているビートボクサーのKAIRI先生の授業です。
この授業は、音楽表現のテクニックのレクチャーだけに留まらず、文字通り体一つを武器に道を極めたKAIRI先生の、体験談や参加者に伝えたい考え方が多く盛り込まれた、楽しくそしてアツく学べる内容でした。

ヒューマンビートボックスとは?

『ヒューマン・ビートボックス(HBB)』は、口や鼻、喉など自分の体だけで音楽を作る最も手軽な音楽表現です。その昔、フジテレビの番組「ハモネプ」で一世を風靡した『ボイス・パーカッション(ボイパ)』とよく混同されますが、ボイパがアカペラ文化発祥で、主に伴奏、そして打楽器音の表現に特化しているのに対し、HBBはヒップホップ文化から生まれ、打楽器に限らないあらゆる種類の音表現をベースにしているという点で異なります。
HBBは、黒人に対する差別や偏見が色濃く存在していた1970~1980年代、ビートボックス(カセットプレーヤー)が買えない黒人貧困層の人々が、「機材が手に入らないなら、自分で音を出せばいい!」と生み出したテクニックが由来であるとされています。HBBの先駆者として有名なFat Boysや、巧みなテクニックでHBBの領域を押し広げたとされるRahzelなど、アーティストたちの動画を交えながら、HBBの生み出された文化的背景や歴史について学びました。

「…どうですか?Rahzel、すごいでしょう?でも、ここから20年以上経ってるんです。HBBも進化します。では、現在の僕がどんなことをやっているのか、お見せしようと思います。肩の力を抜いて聴いてみてくださいね!」

そう言って、KAIRI先生のパフォーマンスが始まりました…

圧倒的なパフォーマンスを間近でたっぷりと体験して、もう授業だということも忘れて観とれてしまいます。口元だけではなく、体全体を使って表現しているなぁということが、間近で体験したからこそよくわかりました。

 

基本の3音

それでは、いよいよ実践です。まず、基本となる3つの音を教わりました。どれも、ドラムの音です。

 

キック

「唇を尖らせて【ブッ】もしくは【ボッ】と言いながら弾き、これを繰り返します。そして、段々声を無くしていくと良いです。」

 

ハイハット

「舌打ちの【チッ】を【ツッ】と言い換えてみてください。それを伸ばすと“オープン”の音にもなります。」

 

スネア

「コレが一番むずかしいんですが、キックの口の形で【プシー】っと言ってみてください。」

先生が一つ一つ順番にお手本を示したあと、この3音だけでかっこいいビートを聴かせてくれました。これができれば、あとは組み合わせ次第で無限のリズムパターンができるようになるそうです。さて皆できるかな?もう一度一つずつコツの解説を聞きながら、皆で一緒に練習していきます。

 

初めての8-Beat

少し慣れてきたところで、最初の課題(8ビート)が板書されました。

まず、個人で練習した後、何人かが順番にマイクを使って成果を披露することになりました。「できなくて当たり前!先生も一ヶ月くらいは出来なかった」というくらいの難易度です。勇気を出して披露した人には、皆が大きな拍手で応えます。発表者は緊張気味でしたが、体を使ってリズムを取っていたことや、リズムを覚えて板書を見ずにできた事をすごく褒めてもらいました。

 

日常の中にあるヒント

ここで本題からは少し外れて、基本の3音以外の音やテクニックなどについて先生が紹介して下さいました。

まずはリムショット、これはスネアドラムの縁の部分を叩く「カッ」という音です。初心者の方からの質問で「息継ぎはどうしてるんですか?」というがよくあるそうですが、この音は、息を吸いながらでも発音できるので、ビートの中に混ぜるとずっとリズムが刻み続けられます。ちなみに、麺類を吸う音や、「へっ」とびっくりした時のリアクションの音にも近いので、そういったシーンを想像して発してみるとうまくできるかもしれません。

次にトランペットの音です。これは「ふぅ〜」という高い声のため息と同じ感じで、口の端の左右どちらかにまとめて息を出すと良いそうです(文章では表現しにくいのですが…)。

また、ビートボックスっぽく聞こえる言葉というものも教わりました。「ポテトチップス」や「ひっつくパンツかむかつくパンツか」をリズミカルに繰り返すと、ビートっぽく聴こえていきます。他にもこういう言葉は考えられるかもしれません。

こんな風に実は日常の端々にHBBのヒントが隠れています。そういう感覚を持って生活するのは単純に楽しいとKAIRI先生はおっしゃいます。いつでもどこでも練習できるのも、HBBならではです。先生は、エレベーターなどの狭くて音の響く場所だと、つい練習してしまうそうです。

一人から二人へ・・・

「HBBは複数人でやると、もっと楽しいのでやってみましょう」

さきほど習った8-Beatを参加者に刻んでもらいながら、そこに先生が参加すると、メロディやアクセントが加わって一気に華やかになりました。

次に、今度は教室の後ろで見学をしていた保護者の方にも協力してもらって、ペットボトルのパッケージに書いてある成分や問い合わせ先などのテキストを読み上げてもらい、そこに先生がBGMとしてHBBをかぶせていくというパフォーマンスをみせていただきました。無味乾燥な文章が、ビートの上に乗っかると、なんだかかっこよく聴こえてくるので不思議です。教室に笑いが起こりました。

・・・そして三人で!

複数人で協力すると幅も広がって楽しいということが分かったので、今度は三人グループを作って課題に挑戦します。先生がまた課題を板書しました。

①②の人が基本のビートを作って、③の人はその上でどんな音を出してもよいということです。まず最初に先生とスタッフがグループになってやってみます。スタッフも初めてやるのでなかなか上手くはいきませんでした…。でも、できなくて当然なので問題ありません!

三人グループを作ったら、まず①②③の役割をローテーションさせながらやっていきます。そして、最後にグループ毎の発表があるので、それまでに誰がどのパートを行うかを決めます。
それぞれのグループを先生が回って、アドバイスしていきます。体でリズムをとりながら、三人で息を合わせてやっていきます。マイクなしのため、周りの音に邪魔されないように、自然とグループの三人が近づき、輪になって練習します。

 

セッションを披露してみよう!

では、いよいよ発表です。ここで初めてマイクを使うことになった参加者もいましたが、マイクはできるだけ口に近づけてまっすぐ口に向けるのが一番音を拾うことを教わりました。これはビートボクサーの人たちがしているマイクの握り方です。③の人はクリエイティビティが求められて難しかったのですが、いろんなパターンが出てきました。ただでさえ即席のグループなので、息を合わせるのは難しいですが、目配せやビートだけでもいろんなコミュニケーションが取れるんだということがわかりました。

 

ループステーションで
ミニパフォーマンス!

授業の締めくくりとして、マイクで録った音を何度も繰り返し再生できるループステーションという音楽機材を使って、全員で一つの音楽を作ることになりました。実際にこの機材を使った先生のパフォーマンスの動画を皆で見てみました。

最初に先生が拍子の音だけ入れたテンポに合わせて、順不同にやりたい人からどんどん録音していきます。思い切って手を挙げて自分から積極的に前に出ていくと、皆から拍手をもらえたり先生も必ず笑顔で迎え入れてくれます。どうせやるなら自分から、そんな前向きな姿勢も、今日の授業を通していつの間にか身につきました。

全員が録り終わると、録りためた音源に先生がエフェクトをかけたり、部分的に再生したり停止したりすることで、参加者の声だけでできたオリジナルの音楽が完成しました。

 

いつか好きになるかもしれないもの

授業の最後に先生はこうおっしゃいました。

「自分が好きなものは続けられるし、続けていけば上達します。そういうものを皆にも見つけていってほしい。でも、人生はとても長いので、今の時期から『好きなもの』と『嫌いなもの』に分けてしまうのはすごくもったいないです。『嫌いなもの』ではなくて『好きになるかもしれないもの』という風に捉えて、いろんな可能性に対してオープンな気持ちで向かい合ってもらえると嬉しいです!」

今回、授業後や休憩中などに「一緒に写真撮ってください!」という参加者や保護者が多かったのも印象的でした。ヒューマンビートボックスにも、目の前の参加者一人ひとりにも、真正面から真剣に向き合うKAIRI先生の姿勢を見て、きっと皆「KAIRI先生、カッコいい!」と感じたのでしょう。

Text: Naokazu Terada

写真

KAIRI先生 のプロフィール

日本最大にして唯一の公式大会JAPAN BEATBOX CHAMPIONSHIPにおいて 計3度の優勝を誇る超次世代型ARTIST。独創的なグルーヴ、芸術性の高い世界観、自由で多様性のある革新的なアイデアを圧倒的なクオリティで表現。 Instagram @kairihbb

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