WORKSHOP TITLE

ダンボール社会学 ―
ものの見方。発想のジャンプ!

TEACHER

織咲誠 先生

インターデザイン
アーティスト

REPORT

世界初!のダンボールを自由自在に自分の手で加工する道具[or-ita|オリタ]を作った開発者であり、『ダンボール社会学』者、そして本業は美術家の織咲誠先生の授業です。

準備

まずはここを語らないと、いやここから語らないと織咲先生の凄さはきちんと伝わらないんじゃないでしょうか。県外在住の織咲先生は年を越す前の2019年12月から大量のダンボールを持ち込み、泊りがけで下準備に入ります。しかも1日2日じゃなくて10日弱泊まり込み、作業できる場所のギリギリ使用できる時間まで黙々とダンボールに折り目線をつけていきます。目が眩む程のダンボールの数に最初は途方に暮れましたが、1枚1枚と向き合っていくうちにどんどんスピードアップをしていきます。そのときに“素材と対話”するって事を教わりました。スピードを意識するあまり、折り目線がずれてしまうことがあるんですね。素材と対話しながら指先に意識を集中して素材の僅かな凹凸などに刃が引っ張られないようダンボールと会話をしながら作業を進めます。

▲ [or-ita|オリタ]を使った線入れ作業。ダンボール1枚あたりに入れる線の長さは合計134メートル。それを80枚ひたすらに入れた総合計距離はなんと約11km!1万回以上、[or-ita|オリタ]でコロコロと線を引きました!

また、授業で使う教材はダンボールの他に同じ形状のコピー用紙もあり、束にまとめる時も1枚取り出すときも、手を使わずにピンセットで丁寧に扱います。どうしてかと言うと指先でさわるとシワになることがあるからです。参加者が初めて触れる教材は美しくあるべきだとここでも大切な事を教えて頂きました。

授業開始

授業の始まりです。授業開始の合図とともに入口からダンボールで組み立てた大人がひとり入れる程のキャタピラが転がって登場。少ししたらダンボールでできたクマの被り物を被った織咲先生が教室に入ってきました。みんないつもの学校の先生とは全然違う先生を見て興味津々です。

授業で使う道具の使い方を説明してから、いよいよ授業がスタート。今回の授業では織咲先生が開発した世界初!のダンボールを自由自在に加工できるカッター[or-ita|オリタ]を使います。まずは手慣らしにクルクルとまわるおもちゃ「無限くるくる」を作ります。ダンボールに作図された線に沿って、コロコロっと[or-ita|オリタ]で折るための下ごしらえの線をつけていきます。参加者一人ひとりの動作を見ながら、道具や材料の使い方、何をすると危ないかなどをアドバイスすると、恐る恐る動かしてた参加者たちもすぐに馴れていきます。線入れの次に、線にそってパキッと!気持ち良く曲げられる道具の威力を体感して驚きの歓声があがります!

すべての線に曲げクセをつけたら、いよいよ接着の工程に移ります。「ボンドは少しだけ、沢山使うとなかなか乾かないよ」と織咲先生。「Doing the most with the least.(少ないものでより多く)」は、織咲先生の敬愛する思想家で構造家、建築家、詩人でもあるバックミンスター・フラーが残した思想として知られていますが、この教えどおり接着するボンドも少ないほうが乾きが早く生産性や経済性が上がります。なぜ?と戸惑う参加者には、水に濡れたTシャツを例に「たくさん濡れたTシャツと脱水をしたTシャツを比べてどちらが早く乾くかな?」と投げかけ、参加者の経験に基づくたとえ話を交えて“量の原理原則”を説明します。つい作業に夢中になってしまい忘れてしまいがちなことにも意識を向けていきます。

世界のダンボールとクマ

「無限くるくる」ができ上がり、ある程度ダンボールや道具に慣れてきたら、今度は様々な国のダンボールをみんなで見ていきます。よく観察するとダンボールの微妙な色味や手触り、印刷の具合などひとつひとつ全然違います。その国らしさがダンボールひとつ取っても素材やデザインに出るんですね。この箱はどこの国かな?参加者の“文化イメージを総動員”する国当てゲームで盛り上がります。

▲ ベルギーのダンボール

▲ インドのダンボール

▲ フィリピンのダンボール

ダンボールのわずかな差異から、世界の多様な感性や文化を“感じ・読み取る”たのしさを紹介したら、のそのそとダンボールでできたクマ(Create:Satoshi Tanaka|make道場)が教室に入ってきました。ひとしきりクマと遊んだあとはパチリと記念撮影。このクマはダンボールや捨ててあった物を集めて作られています。織咲先生は、ダンボールのことをほぼ無料で手に入れることのできる夢の素材だといいます。一見すると捨てられてしまうものですが、身の周りのものをよく見渡せば、とらえ方によっては宝物がたくさん落ちているのかもしれませんね。

具象と抽象

休憩をはさみ、先生は参加者にとても難しい話をしました。具象と抽象の話です。「今すぐに分からなくて良い、人の名前を覚えるのも1回で覚えるのは難しいのでこの言葉の意味も何回か出会ったら覚えられるよ」と前置きをした上で説明を続けます。簡単に言うと抽象はバラバラなものから全部に共通な点を見つけて本質をつかむことです。実際に、ダンボールの断面と鉄道の鉄橋模型を並べると、参加者は構造(トラス)がまったく同じことに気づきます。さらにフラードームの模型と先につくった「無限くるくる」を並べて共通点は何だろうと問いかけます。これらをよく観察して、参加者は共通点である“三角形”を発見します。「そう!三角形の構造を見つけるとはすごい!でも、名前がついているよね?これはまだ具象の見方なんです。では、三角形が多くに使われているのはどうして?」と更に問いかけ、参加者は頭をフル稼働。しばらくして「強いから?」と声があがります。「そう!三角形は強いんだ。これが抽象(化)であり三角形の本質です」と織咲先生。“三角形は強い!”を自ら導き出した参加者を讃えます。

そうやって色んな物の共通点を探して抽象化することでものの本質を知ることができます。誤解されがちな抽象は、「抽象的で曖昧だからもっと具体的に言ってよ」などとネガティブな意味で出会うことが多いかもしれませんが、正しく抽象を認識してこれからの多様化する時代に違いや共通点をみつける能力は武器になるでしょう。バラバラのものから同じものを探る。この「ものの見方」が「発想のジャンプ」に近づくヒントかも!

[テアタマ|手脳]
手を脳のように動かす

授業の最後はダンボールを使った被り物を作っていきます。といってもダンボールは厚手で、折り紙のように自在に操ることができません。予め決められた方向に加工しやすいように折り目などを入れていますが制約の多い素材です。織咲先生からは手を脳のように動かして作ってみようとアドバイス。何を作ろうと頭で考えてから手を動かすのではなく、まずは手を動かして、何かに見えてきたらそこから形を作っていく。頭でイメージしてから作るというのが当たり前だと思っていた多くの参加者が相当苦戦しています。考えたいのに考えない。とても難しい作業です。

▲ 具象ができやすい「or-ita+S|オリタス©」折れ曲がる「無数の三角面」をやりくり・工夫する造形あそび。

▲ 抽象ができやすい「or-ita+S_R|オリタス_アール©」1種類だけの曲線パーツの組み合せから無限の造形を生み出す。

▲ 「or-ita+S|オリタス©」でつくった鳥のようなもの(左)と「or-ita+S_R|オリタス_アール©」でつくった渦巻のようなもの(右)

その中でも手を動かし続けていくと「おもしろい形!」「美しい!」と思ったり、モヤモヤ悩んでいるときに、一瞬「何か」に見えてくることがあります。その「何か」を見逃さずに掘り下げていくと自分では思ってもみない物が現れてきます。“自分の考えをゼロにして”何かを強く感じる出会いが起こるまで身体を動かす。これが織咲先生のいう発想のジャンプです。先生は最後に大事な事を3つ参加者に語りかけました。「まず『手を脳のように動かす[テアタマ|手脳]』次に『失敗や偶然と友達になる』最後に『やり続ける』それができたら世界が驚くような物が作る事ができるかもしれないよ」近い将来、今回の授業を受けた参加者から思いがけない発想のものが世に出てくるのを楽しみに待ち望んでいます。

Text: Mitsutaka Kansaku
協力:株式会社セイホウHAKOYA
   みんなのダンボールマン

写真

織咲誠 さんのプロフィール

世界初!ダンボールを自由自在に自分の手で加工する道具[ or-ita|オリタ]をつくった開発者。本業は美術家。
http://or-ita.me
https://te-atama.com/concept

ななめな学校4の授業 REPORT