WORKSHOP TITLE

模型を
作ってもらおう

TEACHER

黒澤健一 先生

建築家

REPORT

建築に必要な要素の中で「伝える」にフォーカスする

市原で建築設計事務所を主宰する黒澤健一さんが先生をつとめたこの授業では、はじめに建築設計という仕事の内容が簡潔に分類され、説明されました。

まず「調査」(敷地の場所や広さ、守らなければいけない地域条例や法律の調査に加え、クライアントの家族構成や必要な部屋数の把握/好み・要望の整理)を行い、それを踏まえて「デザイン」を行う。そして、クライアントが気に入った「デザイン」を施工者に「作ってもらう」。それが建築家の仕事であるとのことでした。

建築家は自分で建物をつくるわけではなく、大工さんや工務店といった他者に「作ってもらう」ことを前提としているところが陶芸家や家具職人と違っており、他人に「作ってもらう」(しかも作る人がまだ一度も見たことがないものを作ってもらわなければならない)ために「正しく伝える」ことがとても重要なのだという黒澤先生の考えに基づき、今回の授業はこの「伝える」部分にフォーカスした内容となっていました。

まだ見ぬものを人に伝える
⇔人の情報を頼りに見たことのないものを想像する

部屋の隅にはそれぞれ異なる5つの抽象化された建築模型が、ほかのグループからは見られないように隠されて置かれています。子供たちは前半の時間を使って、自分が担当することになった一つの模型をよく観察し、その模型を見ていない他の参加者に正しく伝えるための図面を作成しました。

その方法は
・展開図やスケッチを描く
・寸法を測る
・色や模様を書き込む

等で、黒澤先生は伝え方のヒントとなるメモを用意していましたが、子供たちは迷うことなく皆それぞれに工夫して図面作成を進めたため、先生はヒントのメモを子供たちに見せませんでした。これは黒澤先生にとっても想像を超える出来事でした。


後半は作成した図面を参加者同士で交換し、他人が作成した図面を基に見たことのない模型を想像し、作ってみました。模型は(抽象化されていたとはいえ)ある程度の複雑さを残していたので完成させることのできた参加者は少なかったですが、他人に伝えるための図面を作成する(建築家の役割)だけでなく、後半に図面を基に実際に作ってみた(大工さんや工務店の役割)ことで、どうすればより分かりやすく伝えられるかを省みることのできる授業となっていました。

人にものを伝え、複数人で一つのものを作り上げる楽しさ

自分の描いた図面を基に他人に模型を再現してもらうこと(と同時に、渡された図面だけを頼りに見たことのない模型を想像し、他人のために作ること)を通して、人にものを伝える方法や人の意思をくみ取ろうとすること、そして対話しながら複数人が関わって一つのものを作り上げる楽しさが実感できる授業でした。

作業終了後の黒澤先生からの「どんな仕事であっても、社会に出るといろんな人が関わって一つのものを作り上げていくケースがほとんどなので、自分の考えを正しく伝える必要があり、その際にどのような表現を用いればうまく伝えることができるかを考えることはとても重要です」というメッセージに、この授業が寸法入りの展開図や平面図を描き、模型をつくるという建築の専門性だけでなく、参加者が将来どの分野に進んでも役に立つ汎用性を含んでいたことを強く感じました。

実は、全て黒澤先生の設計した建築の模型だった!

本授業に用いられた5個の抽象化された建築模型は全て黒澤先生が設計し、実現した建築(現在、この世界のどこかに実在している建物)の模型だったことが最後に明かされ、実際の建物の写真を鑑賞しながら会場は大きな盛り上がりを見せました。

Text: Yuta Hosoya

写真

黒澤健一さん のプロフィール

千葉県市原市を拠点に建築設計をしています。色んな住宅、店舗、展示空間の設計に取り組んでいます。建物から都市までまじめに考えて、人々の暮らしを勇気付けられる建築を作ろうとしています。
http://kurosawakawaraten.com/

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