キャラクターにフォーカスする
本授業はマンガナイト(特定の漫画やテーマについて参加者が自由に語り合えるイベントから活動をスタートさせた、漫画を介したコミュニケーションを生み出すユニット)代表の山内康裕さんと漫画家の敦森蘭さんに先生を務めていただきました(敦森先生の参加は当日まで発表されておらず、参加者にとってはプロのマンガ家がシークレットゲストであるという嬉しいサプライズ!)。
本授業は、漫画の描き方(技法)を学ぶのではなく、漫画におけるキャラクターづくりにチャレンジしてみるという点に特徴がありました。
自分と正反対のキャラクターを創造してみる
まず4コマ漫画には起承転結があり、4コマ目でオチをつけるという説明の後、某有名マンガの4コマ目のセリフ(そこだけ空欄になっているプリントが配られた)を自由に考え、発表しました。
その結果、様々な角度からのオチのセリフが集まりました。この「様々な角度のオチ」はどれもストーリー作成の時点では正解の可能性があると山内先生はおっしゃいました。
次に「喜怒哀楽」の感情を持った時、自分はどのようにその感情を表すのか(もしくは表さないのか)を漫画で描いてみるとともに、自分とは全く性格の違うキャラクターならそれぞれの感情をどう表現するかも絵にしてみました。
「自分とは全く性格の違うキャラクター」を想像し、その感情表現を絵にしてみるのは難易度が高いように感じましたが、参加者は自分と違う性別のキャラクターを設定し感情を想像したり、違和感を感じたシチュエーション(作者は何とも思わなかったが、友達が大層怒ったシチュエーションなど)を思い出してみたりすることで皆それぞれに違いを表現していました。
実際にストーリーを作り、漫画を描いてみる
最後に、敦森先生が途中まで作成した漫画の主人公(女子学生)に名前や家族構成から趣味、性格まで細かく設定をつけたうえで、その設定の主人公ならどのように振舞うかを考えて漫画の続きを作成しました。
大きな一コマで全てを表現する参加者もいれば複数コマに割って物語を進める参加者もおり、また飼い猫など主人公以外のキャラクターを登場させる参加者もいて、子供たちの発想は千差万別でとても豊かでした。そして、それだけの豊かな発想を許容し、誘発する授業内容でした。
キャラクターが導くストーリーの必然性
子供たちの発想は千差万別でしたが、それぞれが詳細なキャラクター設定をしたうえで作った物語はどれも必然性がありました。
最初に出題された4コマ漫画のオチも、当初は参加した子供たちの意見がどれも面白くどれも正解に思えましたが、最後の漫画製作の過程を見た後では、「キャラクターの性格まで想像すると漫画に描いてあるオチが必然だ」と思えたのが不思議でした。
マンガを通して「自己」と「他者」について思索する
本授業は「漫画は絵を上手に描くこと以上に個性あるキャラクターを創造することが大切で、全く異なる性格や考え方のキャラクターが複数登場することがストーリーを盛り上げていく。それがマンガの面白さで、その面白さを参加者に伝えたい」という山内先生の思いが、一般的な漫画講座とは異なる、魅力的な授業を作り上げていました。
そして自分とは正反対の性格のキャラクターの感情表現を想像し、架空の女子学生キャラクターに詳細な設定をつけることを通して自分ではない他者について考えるとともに、翻って「自己」の感情表現や性格をも客観的に見つめるきっかけとなるエッセンスを含んだ授業でした。
Text: Yuta Hosoya