世界中の土を見比べてみる
美術家の佐藤先生の授業は「土」という身近にある題材を絵の具にして、参加者みんなで一枚の大きな絵を描くというものでした。
まず佐藤先生が収集したという試験管に納められた50種類以上の世界中の土の色の違いをみんなで観察しました。同じ土でもその土のとれた環境によって色だけでなく粒の大きさや硬さが違うことを発見しました。
千葉県の土の色を感じる
次に日本の土の図鑑を見ながら千葉の地域ごとの土の特徴を発見し、その情報をもとに本授業で用いる5種類の土が千葉のどの地域のものかを考えてみました。色だけでなく、匂い、温度、微細な乾燥度の違い、粒子の違いなど、目の前の土から得られる情報を五感を使って最大限に収集しました。
土を砕いて絵の具をつくる
いよいよ土を砕いて絵の具をつくっていきます。班ごとに分かれ、すり鉢を使って土を手で触って粒子のざらつきを感じないほど細かく砕いていきます。十分な細かさになったら水と液体のりを混ぜ絵の具にしていきます。試し塗りをしてベースの絵の具として最適な濃さを先生と相談して探っていきます。
普段学校で使っている絵の具は製品として売られていますが、本来絵の具は色のある天然素材から作り出しており、いまでも日本画における岩絵の具など、製作の際に絵の具をつくるところから始めることもあると先生は説明します。
混ぜ合わせて新しい色をつくる
各班が製作した5色のベースの絵の具を各自パレットにとり、5色を混ぜて好きな色をつくります。
出来上がる色をイメージして2色を混ぜ合わせる参加者もいれば、思い通りの色が出来上がるまで何色も足し合わせていく参加者もおり、それぞれの個性が見受けられました。
大きな一枚のキャンバスにみんなで絵を描く
いよいよみんなで絵を描きます。佐藤先生もここまで大きなキャンバスでの製作はしたことがないという大きさの模造紙にみんな思い思いに絵を描いていきます。
佐藤先生から提示された「海」や「空」、「宇宙」などのテーマ(回ごとに異なる)をもとに描くものをイメージします。
最初は他の参加者と重ならないよう、暗黙の了解でそれぞれに自分の領域を定め、絵を描き始めましたが、徐々にまわりの参加者が描いた絵に想像力を刺激され、佐藤先生にも焚きつけられて、他の参加者の描いた絵やストーリーと相互に干渉しあいながら、どんどんキャンバスの中央へと描き進め、時間の経過とともに、より自由によりのびのびとした線に変わっていったのが印象的でした。
感覚を解放させるアルカイックさ
本授業は参加者が最終的にとても自由にのびのびと感情を解放させて絵を描いていたことが何よりも印象的でした。勿論、絵を描いている最中の佐藤先生による誘導もあったのですが、それ以上に最初の少しの理論(土や絵の具について)からどんどん感覚に訴える内容へと進んでいった授業の構成の効果が大きかったと感じました。
多様な土の種類を触って硬さや肌感覚の違いを知り、色の違いを目で確かめる。匂いも嗅いでみる。絵の具にするためにすりつぶした時も粒の細かさは触って確かめてみる。絵の具を混ぜ合わせ、理想の色をつくるために何度も組み合わせて試してみる。
そこには理屈は一つもなくて、あるのは全て「試してみる」ことと「感じてみる」ことでした。
古代に壁画が描かれたのと同じようなやり方で「土を使って絵を描く」という行為はアルカイックで原始的かもしれませんが、その工程によって徐々に感覚が研ぎ澄まされ、感情が解放されていくのだということが実感できる内容でした。
Text: Yuta Hosoya