「どんな図鑑を知っていますか?」
この授業はYCAM(山口情報芸術センター)研究員である津田先生による授業です。
津田先生のお仕事は多岐にわたりますが、例えばYCAMがある山口市内の森に生息する植物の葉っぱなどを採取し、そのDNA情報から森の生態を紐解く「森のDNA図鑑」を製作されています。
まず授業は「どんな図鑑を見たことがありますか?」という質問からはじまりました。
参加者が持参した「植物図鑑」や手帳サイズで持ち歩きやすい「野草図鑑」、津田先生が作成された「森のDNA図鑑」など、実際の例をみながら、どの図鑑も使用目的や使用場所によって、切り口(何が書かれているか)やデザイン(本の大きさ、絵が多い/文字が多い、本ではなくWEBにまとめる)がそれぞれに工夫されていることを学びました。
「既成の図鑑」を使って『調べる』のではなく、
「新しい図鑑」を『つくる』!
「今日は、すでに世の中にある図鑑を使って植物を『調べる』のではなくて、自分だけの見方で新しい図鑑を『作る』授業です」と津田先生は説明します。
そこで「どこに着目して」「何を観察すれば」面白い図鑑ができそうか、みんなで意見を出し合いました。
大きさ・色・形など目に見えることから、刻んでみる・絞ってみるなどの実験系、生えているのが日向か日蔭か・どんな虫がついているかといった周辺情報の観察まで様々なアイデアが出ました。
また机の上には津田先生が用意した沢山の道具がありました。これらの道具もヒントに、自分の作る図鑑をイメージしたうえで、観察と採取に向かいます。
観察と採取にでかけよう
みんなで近くの公園まで安全に移動し、植物の観察と採取をおこないます。
出かける前に渡されたものは、保管用のチャック付きの袋と、ボード、メモ用紙、鉛筆、ゴム手袋です。花壇や藤棚、自生している雑草や苔、落ち葉や木の実や枝など、それぞれ興味のある植物を見つけたら、採取したり匂いを嗅いだりと自分の作りたい図鑑にふさわしい方法で観察し、気が付いたことはその場でメモします。
「図鑑」をつくろう
教室にもどったらいよいよ図鑑をつくります。
「つくりながら考えてもいいけれど、最初に図鑑の名前を決めておくと図鑑が作りやすくなるよ」と津田先生はアドバイスします。
自分の図鑑をつくるために必要であれば、津田先生の用意した道具を使って観察を続けます。正確な大きさを測ったり、カラーチャートで色を探したり、割って中に何があるかを調べたり、採取した植物を全てすりつぶして比較したりと、みんな作業に没頭して自分の興味のあることを調べました。
わかったことや気がついたことは、図鑑にまとめていきます。
「図鑑」のデザインも自由
自分が興味をもって観察したことを他の人に伝えるためにはどうしたらよいかを考え、図鑑のデザインを決めます。1枚の紙の表裏を使っても、複数の紙を使っても良いですし、白黒の図鑑でも、カラフルな図鑑でもOKです。また、丁寧に植物を模写した図鑑でも、植物をそのまま貼り付けた図鑑でも構いません。ルールは一切なく、全て参加者にゆだねられています。 その結果、一枚の紙を折り込んで小さな冊子を作った参加者も、図鑑にポケットを設け、実物を入れた参加者もいました。独自の基準で★5つを最高点として植物を評価した参加者もいれば、すりつぶした植物の汁を図鑑にしみこませた参加者もいました。
つくる図鑑が違えば、当然そのまとめ方も変わります。
一方、似たようなタイトルの図鑑なのに、全く違う表現をした参加者がいたのも興味深かったです。
つくった植物図鑑を発表しよう
最後は完成した植物図鑑の発表です。
何についての図鑑なのか、どんな観察や調査を行ったのか、まとめる際はどんな工夫をしたのかを、津田先生の質問に答えながら全員が発表しました。
同じ「植物図鑑」というテーマで、同じ公園に行き、同じ時間で観察と採取を行ったのにもかかわらず、出来上がった図鑑は千差万別でした。着目した点が独創的だった参加者も多く、出来上がった図鑑にはとてもワクワクさせられました。
また、参加者全員の図鑑のタイトルを黒板に記録していった結果、黒板にはこのワークショップのオリジナルな「『みんなの図鑑』の図鑑」が出来上がりました。
まずは目の前のものを「観察」し、情報を集めてみる
今回のワークショップは「図鑑」づくりを通して、テーマ決め→観察→製作→発表というものづくりの基本的な流れを経験できるプログラムとなっていました。
また、目の前の植物に対して「これはローズマリーだ」「これはタンポポだ」というように「知識」でその植物を理解するのではなく、「どんな場所に生えていたか」「どのくらい密集して生えていたか」「硬いか柔らかいか」「どの程度水分を含んでいるか」などその場での「観察」を通して、今わかる情報からその植物を定義していくという、とても重要なモノの見方が提示されていました。
普段の授業では「知識」を習うことが多いと思いますし、「知識」を覚えることはとても重要です。しかし、時には「知識」すら疑って、自分だけの見方で観察や調査をしてみることが個性を伸ばし、ひいては新たな発見を生み出すのだと気づかされる、刺激的な授業でした。
Text: Yuta Hosoya