前回に引き続き、西千葉で様々なものづくりをサポートしている西千葉工作室のみなさんによる授業です。今回の授業では、いつの時代も子どもたちに親しまれているケイドロにいくつかの仕掛けを加えて、既存の遊び方の拡張に試みました。会場は稲毛高等学校附属中学校の体育館をお借りして、ダイナミックにケイドロを楽しみました。
遊びの舞台はダンボールタウン
体育館一面に積み上げられた見渡す限りのダンボール。これは授業の前日に西千葉工作室の皆さんが街に見立ててつくったケイドロの舞台です。このダンボールタウンをつくるために集めたダンボールはなんと約200個! スケールの大きさにワクワク感も高まります。
泥棒チームは空間をアップデートする
参加者に向けて、ケイドロのルールをかんたんに説明をしたあと、警察チームと泥棒チームに分かれて作戦会議をそれぞれはじめます。ゲームの前に、泥棒チームには予めつくられたダンボールタウンに新たなダンボールを追加できる権利が与えられます。身を隠したり逃げたりしやすいように、曲がり角や凸凹をつけたり、床に一方通行の道路表示をつけたり、段ボールをくり抜いて潜伏場所をつくったりと、時間いっぱいまで自分たちの手でアップデートをした街はまさに要塞そのもの。泥棒チームがつくり上げた街は視覚的に遮られた場所が多く、身を潜める場所も多そうです。空間にちょっとした手を加えることで、少し前までの街の様子から一変しました。
▲泥棒チームによって街は要塞化していく
警察チームはセンサーで第六感を手に入れる
泥棒チームによってつくられた死角だらけの街では、治安を保つのは困難を極めます。そこで新たに警察チームに配布されたのが、泥棒との距離が近くなったらアラームが鳴るリストバンド。リストバンドは、泥棒チームが身に付けたしっぽに一定距離以上近づくとアラームを出すようプログラムされた仕掛けとなっていました。泥棒の姿が目に見えなくても、泥棒の存在に気づくことができるものです。第六感を身につけ、身体感覚を拡張した警察チームが街の治安維持に努めます。
▲通信の具合をチェックする警察官
機は熟した。さあ、ゲームをはじめようか
まずは、ハイパーケイドロのルールのおさらいから。
基本ルール
泥棒チーム10名、警察チーム20名に分かれて対決をする
時間内に泥棒チーム全員を捕まえたら警察チームの勝ち
時間が経過して泥棒チームが一人でも残っていたら泥棒チームの勝ち
警察チームが10秒数えている間に泥棒チームは隠れる
泥棒はしっぽを身に付け、警察がそのしっぽをとったら逮捕(牢屋に入れられる)
定期的に牢屋の開放ブザーが鳴り、その間は脱走できる
ペナルティ
叩く、引っ張る、転ばせるなどの危険行為
ダンボールを動かす、崩すなどの破壊行為
牢屋の開放ブザーが鳴っていないときに脱走をする
このルールのもと、両者準備が整ったところでいよいよゲーム開始。スタートの合図に合わせて泥棒たちは一斉に街の奥へと消えていきます。ものの数秒で、どの角度からみても姿が見えなくなっていきました。
▲ルールはほぼ古典的なケイドロと同じ
▲スタートの合図に合わせて警察は目を隠して10秒数えます
▲泥棒は警察が10秒数えている間に隠れろ!
結果は警察チームの大勝利!さて、どうする?
ゆっくりと10秒を数えたら早速、警察が泥棒たちの捜査に向かいます。身を隠し、息を潜める泥棒に対して、これはなかなか見つけだせなそうだなと思った矢先、あちこちでアラーム音が鳴り響きます。リストバンドを装着した警察が次々と泥棒を検挙していきます。警察が身につけたセンサーによって、あっという間に街の治安は保たれました。まさに電光石火の掃討作戦、警察チームの大勝利です。
▲隠れていてもセンサーでわかります
子どもたちと一緒にゲームのルールを考える
ダンボールタウンの世界では街の平和が守られてめでたしなのですが、あまりにもセンサーの効果が抜群でゲームバランスがおかしくなってしまいました。そこで子どもたちと話し合いながら、勝敗のバランスを保つためのルールを話し合います。まずは、警察チームの人数を大幅に少なくして、人数のバランスを調整しました。そして泥棒チームはゲーム開始前に加えて、前半戦と後半戦の間に空間をさらにアップデートできるルールを設けました。ただケイドロを楽しむだけではなく、自分たちで遊んでみて「どうしたらゲームとしてもっと面白くなるか?」を考えながら、ハイパーケイドロのルールも子どもたちと一緒に改良していきました。最後には、警察と泥棒の勝敗の均衡が保たれることで絶妙なゲームバランスとなり、両チーム共に楽しめるゲームへ進化しました。
▲話し合いでゲームバランスを立て直します
▲少人数体制となった警察官チーム
▲捕まった仲間の救出に向かいましたが捜査網に引っかかります
▲ゲームバランスを整えたことで両チームにとってスリリングな展開となりました
身体感覚の拡張を体感して遊ぶ
山のようなダンボール箱と泥棒の居場所を検知するリストバンド、牢屋の開放ブザーの演出など、ダンボールタウンと電子工作をツールにいつもとは異なるハイパーなケイドロを楽しみました。今回は、センサー技術を使って警察チームが擬似的に新たな身体感覚(泥棒が近くにいるとわかる能力)を身に付けて遊びましたが、センサー技術に関わらず遊び方を工夫することで、年齢、性別、障害の有無などによる身体能力の差を超えて様々な人が同じ土俵で楽しむことのできる遊びの可能性を示した授業でした。
▲ゲーム終了後はお互いの健闘を称え解散しました
Text: Hideyo Ryoken
協力: 稲毛高等学校附属中学校