WORKSHOP TITLE

感じたことを言葉にしてみよう。言葉を詩やラップにしてみよう。

TEACHER

環ROY 先生

ラッパー

REPORT

リズムに言葉をのせると言葉は音楽になる

このPOPUP WORKSHOPは千葉市美術館で2019年11月2日から12月28日まで開催された「目[mé]非常にはっきりとわからない」展の連動企画として行いました。午前午後、5時間に渡る授業で、千葉市美術館協力のもと、途中に「目[mé]非常にはっきりとわからない」展の鑑賞も組み込んだ内容でした。
初めて会う人と「ラップ」という身体表現を行うということで緊張気味の参加者に対し、環さんは、ときに見学をしている保護者の方を巻き込みながら洒脱なトークでじわじわと場を温めていきました。そしてご自身の楽曲『ことの次第』の歌詞をセンテンスごとに意味を説明するようにゆっくりと発してから、リズムをつけ音楽にしていき、1番を全て歌ったところで「こういうことを仕事にしています。環ROYです」と自己紹介されました。

リズムに合わせて声を発してみよう

ではいよいよ実践のスタートです。
まずは緊張を解くためにみんなで大きな声を出してみました。つづいて、ビート(音源)にあわせて環さんと一緒に「わっ」と声を出してみます。ビートをよく聞いて、リズムの頭にあわせて声を出します。

次は円になって、ひとりずつ声を出します。焦らなくていいからリズムをしっかりとるように環さんはアドバイスします。
同様にリズムをキープしながら、発する内容を「わっ」という「単音」から意味のある「単語」に変えていきます。
そしてそのまま、リズムに乗った連想ゲーム(前の人の単語から連想される別の単語を発する)を行いました。徐々に難易度が上がっていきます。

抑揚をつけて、長さを変えて、
50音を読んでみよう

みんな頭を使い、少しリズムに乗ることがおろそかになってしまっていたので、環さんは流れを変えて、50音にリズムや抑揚をつけて読みました。「あいうえお」「あいうえおおお」「ああいうええお」というように、ただ「あいうえお」をよむだけでも一文字を読む長さや抑揚、同じ文字を重ねたり、途中に休符を入れたりすることで、様々な読み方ができることが分かりました。

連想ゲームで文章をつくってみよう

休憩をはさんだ後、全身を使ったウォームアップを行いました。まず二人一組でゆっくり互いに押し合い、次に体の一部を接したまま(力を相手にかけ続けながら)ゆっくり動いてみるということをしました。どちらかが強く押しすぎたり、逆に弱すぎたりするとバランスが崩れふらつきます。互いの動きを意識しながら全身の力を掛け合う、普段の生活ではあまりすることのない面白い体験になりました。
ここでもう一度リズムにのった連想ゲームに挑戦です。慣れてきた人は「単語」だけでなく、「文章」にしてみます。勿論リズムを感じて、リズムに乗せて行います。

特定の母音にアクセントをつけて
文章を読んでみよう

今度はもっと長い文章をリズムに乗せて歌ってみます。
今回のワークショップにおいて、環さんから参加者に「自分の好きな本を持ってきてください」とのお願いがあったのですが、みんなが持ってきた本を環さんがリズムに乗せて読んでみます。
小説や漫画や図鑑など、参加者によって様々なジャンルの本を持参していましたが、環さんがビートに合わせて(参加者が一番好きなシーンを!)読んでいくと、ラップ(音楽)になるのが不思議です。

その秘密は「母音が同じところにアクセントをつけ、区切る(少し間を開ける)」こと。
「じゃあ、母音が「あ」の文字を強調してやってみるね」と実演してみせると、参加者も納得した様子。順番にどんどんチャレンジしてみます。
「ひとつの規則に従って抑揚をつけ、休符を入れることで、反復された繰り返しが起きる。これがリズムになって音楽になるんだよ」という環さんの説明を、普段読んでいる本に実際にリズムをつけて歌ってみることで実感を伴って学びました。

「目[mé]非常にはっきりとわからない」展を鑑賞しよう

お昼休憩をはさんだ後は、いよいよ「目[mé]非常にはっきりとわからない」展の鑑賞です。
美術館には普段いかないという参加者も多かったですが、展示内容にみんな大興奮。
何度も7階と8階を行ったり来たりしてどこかに違いがないかと必死に探したり、ローリングタワーの上で寝ている人が本物の作業員なのかがどうしても知りたくて話しかけてみたり(もちろん返答はなし)、今どちらの階にいるのかわからなくなり、8階にいるのに上りのエレベーターに乗ってしまったり、と鑑賞ルールを守りながらも大はしゃぎで楽しみました。

※「目[mé]非常にはっきりとわからない」展:現代アートチーム目[mé]による初めての美術館個展。千葉市美術館の改修工事とチバニアン(磁場逆転地層)から着想を受けたという。会場は7階、8階の2フロアだったが、どちらの階にも設営の途中のような「状況」が寸分違わぬ(ように見える)状態で展示され、行き来はエレベーターのみに制限された。

歌詞を書いてみよう
~「音の似た言葉」を見つけ、
それぞれの「言葉のイメージ」を連想しよう~

戻ってきたら、いよいよ歌詞を書いてみます。
「目[mé]非常にはっきりとわからない」展の感想を書いて、(先ほど本を読んだように)そこにリズムをつけてもいいし、展示とは関係なく、韻を踏んだ言葉から物語をつくってもOKです。
ここで環さんが、ラップの歌詞の書き方をホワイトボードを使って簡単にレクチャーしてくださいました。

まずは、物語を考えずに音が似ている言葉(母音が同じ並びの言葉=韻が踏める言葉)をたくさん書き出してみます。例えば母音が「あ・い」という並びでは「あい(愛)」「かき(柿)」「たに(谷)」「かに(蟹)」「はじ(端・恥)」などが、「い・い」という並びでは「みち(道・満ち)」「いみ(意味)」「いき(息・行き・生き)」「ちち(父・乳)」などが挙げられます。⋯①
次に、それぞれの言葉から先程の連想ゲームのように「その言葉の持つイメージ」(意味が似ていたり、元の単語を装飾できたりする言葉)を挙げていきます。
例えば「柿」に対して「くだもの」「だいだい色」等の性質を連想することもできますし、「甘い」柿、「渋い」柿というような装飾語を連想することもできます。
また、「柿」→「だいだい色」の連想を受けて、「だいだい色」→「太陽」と最初の言葉とは直接関係のないものに連想を拡げていってもOKです。⋯②
最初の言葉とは別の語感を持った言葉が出てきたら、その言葉をベースに①の作業を行います。
例えば、上の例では「」「だいだい」「陽」が全て「あ・い」という並びですが、今度は「たいよう」の「お・う」に着目し、語尾に「お・う」がつく言葉を集めてみます。
この①と②の作業をいったりきたりしながら、集めた言葉をつなげて物語をつくっていくと、繰り返しが生まれ、リズムを持った音楽になっていきます。

言葉をたくさん重ねられなくても、話の筋が通っていなくてもよいので、「いくつかの①の言葉を核に置きつつ、そこから連想ゲームで文章をつくる」というやり方で歌詞づくりにチャレンジしました。

つくった歌詞でラップをしてみよう

最後は、実際につくった歌詞をリズムに合わせて歌ってみます。
まず、環さんがそれぞれの歌詞を読んだうえで実演して、その後に参加者もチャレンジです。歌詞がうまく書けずに躊躇してしまった参加者も中にはいましたが、自分が作詞した歌詞を環さんがラップして下さるとともに、他の参加者や保護者の前で自分で書いた歌詞をラップするという貴重な経験となりました。

みんなが披露したら大トリは環さんです。
環さんは「目[mé]非常にはっきりとわからない」展を見た感想をラップにして、披露してくださいました。

「7階、8階、違い、あるようなないようなわからない
不死身で不気味でお化けみたいに不思議
ウシにつままれたような気分
違うそれはウシじゃなくてキツネ
いつでも僕ら目を使って見ている
昼寝していたら閉じてる目
だから見えない
それは必然
光・目・反射 あるものないもの行ったり来たり
これでおしまい俺の実演」

声は言葉になり、言葉がつながり物語になる
言葉をリズムにのせ、物語を音楽に変える

最後にもう一度、環さんがご自身の楽曲をアカペラで披露してくださいました。
それは最初の自己紹介の時と同じ『ことの次第』という曲です。
授業の核となる大事なことがこの曲の歌詞に綴られていると思いますし、参加者にも改めて読んでほしいので、歌詞を抜粋して掲載します。

『ことの次第』
Words: Ryo Tamaki
Music: Daisuke Tanabe

泣きました
この世界に涙とともに生まれてた
憶えてないけれどいつからか
声を操っていました こんにちは
お父さん お母さん 先生に 少しずつ言葉を教わった結果
こんなふうにたくさん伝えたり 共有することが出来てます
やった!
言葉は記号の次の記号
比喩が結びついて意味になるもの
不完全で関係性がいつでも必要 世界そのもの
鳴きごえは整理され声に変わる
声は言葉となって意味を纏う
意味は時と場を僕らに与え
時と場は物語を紡いでる

(略)

二つの拍 繋がりを持った
言葉は音楽へ変わった
そして音に戻り
時と場に融け
時と場は物語を紡いでる

あ ひとつ 覚えていくよ
い ひとつ 忘れていくよ
う 思い出すよ ひとつ
え  お  巡る

改めてこの歌詞を読むと、まさにこの歌詞に沿った形で環さんがラップの本質である
「声が言葉になり、言葉がつながり物語になること
リズムに言葉をのせることで、言葉を音楽に変えていくこと」
を5時間のワークショップを通して伝えて下さったということが実感できます。
本当に参加者にとってかけがえのない時間となった、貴重なワークショップでした。

Text: Yuta Hosoya
協力:千葉市美術館

写真

環ROY プロフィール

1981年、宮城県生まれ。これまでに5枚の音楽アルバムを発表、国内外の様々な音楽祭に 出演。その他、パフォーマンスやインスタレーション、映画音楽、絵本などを制作。 近年の作品に、パフォーマンス『ありか』パリ日本文化会館(20年)、展示音楽『未来 の地層』日本科学未来館(19年)などがある。MV「ことの次第」が第21回文化庁メディア 芸術祭にて審査委員会推薦作品へ入選。
http://www.tamakiroy.com/

POPUP WORKSHOP 2019の授業 REPORT