このワークショップは、慶應義塾大学SFC 環境情報学部 教授の田中浩也先生や、その研究室のメンバー※と未来の公園のかたちを考える授業です。 2月に幕張メッセ国際会議場で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染予防の観点からワークショップは中止となってしまいました。
折角、ななめな学校のために考えていただいたこの授業を、そのままにしておくのは勿体ないということで、田中浩也先生と、研究室のメンバーの皆さんが、この授業でどのようなことをする予定だったのかを、丁寧にまとめてくださりました。
ここに書かれている授業の内容を読み取って自分で考えてみたり、参考にしながら家で試してみたりしてほしいです。田中先生からのビデオメッセージとともに、是非ご覧ください。
※ 田中浩也研究室 公園ワークショップチーム
名倉泰生さん、青山新さん、松木南々花さん、知念司泰さん、河井萌さん
ごぜんの部
みなさんは、「公園(こうえん)には、どんなものがありますか?」と聞かれたら、なんて答えるでしょうか。「ブランコ!」「ジャングルジム!」「すべり台!」・・・いままで行ったことのある公園を思い出しながら、きっと、そんなふうに、答えてくれるんじゃないかと思います。たしかに、日本じゅうのまちにある公園には、そんなものがありますよね。
ただ、よく考えてみると、それも不思議なことなのかもしれません。まちには、それぞれの特徴があって、住んでいる人も違います。それぞれの暮らし方、過ごし方も少しずつ違います。それなのに、なぜ、日本じゅうのほとんどのまちの公園は、同じようなものしか置かれていないのでしょうか。もっと、まちによって、それぞれ違う公園があるような世界があっても、いいんじゃないか、と考えてみることもできます。それぞれ、住む家がちがうように。ひとりひとりの着る服がちがうみたいに。
実は、たまに、変な公園もあります。東京都大田区にある「タイヤ公園」は、使われなくなったタイヤをつみかさねて、すわる場所や、あそぶ場所をつくっています。世界には、ふしぎな公園がときどきあります。緑の中に埋まっている公園もあります。坂道ばっかりの公園もあります。アメリカには、こどもたちが、自分たちでどんな公園がいいかを考えてつくられたものもあるんです。
西六郷公園(タイヤ公園)
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養老天命反転地:
芸術家・荒川修作とマドリン・ギンズが構想した、斜めの床の家など、体験型の大型アート作品が設置されているテーマパーク
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モエレ沼公園:
北海道札幌市にある、彫刻家イサム・ノグチ設計のユニークな公園。
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グエル公園:
建築家・芸術家アントニオ・ガウディによる、スペインのバルセロナにあるカラフルで不思議な公園
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ウッドランド・ディスカバリー・プレイグラウンド:
テネシー州メンフィスの地元の子供たちの意見を参考に取り入れて設計された公園
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じゃあ、千葉にも、そんな、特徴のある公園があってもいいんじゃないかな。未来を考えてもいいんじゃないかな。世界じゅうから見に来たくなるんじゃないかな。そんな風なことを、みなさんと一緒に、想像力を膨らませながら、考えてみたいと思います。
さて、じゃあ、いままでとは違う公園って、どんなふうに考えたら思いつくんでしょう?
すこし発想を変えないといけないかもしれないな。それでぼくたちが考えたのは、公園にある「もの」から考えるんじゃなくて、まずは公園で「どんなことをしたいか」を先に考えてみる、ということでした。そこで「カード」をつくりました。みなさんには、このカードをひとり2枚ずつ引いてもらいます。
そして、「こんなことをしたい」を先に決めてから、それをするために、どんな「もの」をつくればいいのかな?というのを、逆に考えていくんです。
そのときにも、絵をかくんじゃなくて、いきなり立体の「かたち」をつくりながら考えていきます。たくさん石や枝を用意しておいて、それらを拾いながら、じぶんでくみたててつくります。石や枝は、すごくゴツゴツしていたり、いびつなかたちをしています。なかなかうまく組みたてられません。紙をきってつくったら、もっとかんたんなのに! 粘土をこねてつくったら、思い通りにつくれるのに!きっとそんなふうに思うでしょう。でも、「思いどおりにならない」ことから、にんげんは、いろいろな「わざ」を生み出していくこともあります。
たとえば、「サッカー」は、手でボールをさわってはいけませんよね。手でボールをさわってゴールに投げて良ければ、もっとかんたんに、思ったとおりにボールを動かせるでしょう。でも、それをしないようにすることで、逆に、足やからだ全体をつかった、いろんな「わざ」をうみだすことができてきたのです。
石や木をくみたてていくと、いろんな「発見」があります。自分でかんがえてもみなかったような、かたちが、ぐうぜん生まれてきたりもします。「あれ、ここって、こんなふうにもつかえるんじゃないかな?」とか、「あれ、なにかににているなぁ?」とか、「ここをこういうふうにしてみたら、どうなるかな?」といった、そうぞうを超えた発想が、次から次へと出てきたりするんです。
ときどき、自分のつくっているものを、くるくるまわしてみたり、裏からみてみたり、ひっくりかえしてみたりしましょう。そうすると、自分のつくっているものが、ぜんぜん別のものに見えてきたりもするんですよ。
そうやって、「かたち」のおもしろさ、不思議さを感じながら、じぶんなりに、未来の公園におかれる「もの」をつくっていく。そして、最後に、それに、自分なりに好きな「なまえ」をつけて、友達に紹介する。それで、午前の部はおしまいです。
ごごの部
さて、ごぜんちゅうは、みなさんそれぞれが、こうえんのものをかんがえてくれましたが、ごごは、みんなのつくったものを合体させて、ひとつの大きな公園をつくっていきます。さて、そこで、デジタル空間をつかおうと思います。
「マインクラフト」というゲームをやったことがある人はいますか? レゴブロックのように、ブロックを積んだり、壊したりしながら、自分なりのせかいをつくっていくことのできるゲームです。
今回、みなさんがつくった「かたち」を、3Dスキャンという道具をつかってデジタル化し、この「マインクラフト」の空間に登場させます。そこで、それぞれがかたちを整えたり、全体の「みち」をつくったりしていこうと思うんです。
さてそこにも、ひとつ、私たちは工夫をしてきました。それは、今回の公園は、人間だけが使うものではないということです。人間以外の生き物が公園にやってくることもあるでしょう。特に、この幕張には、テントウムシが観察されています。そこで、みなさんには、テントウムシになった気持ちで、このマインクラフトの空間に入ってもらいたいんです。
テントウムシの目線に立って公園を考える。さて、テントウムシは、この公園でどんなことをしたいでしょうか?それを考えるためにも「カード」を用意してきました。こんなカードです。
みなさん、ぜひ、テントウムシが公園で、たのしんで過ごせるように、デジタル空間で、公園をよりよいものにしていってください。水も流して、草が木が生えるようにも、してみてください。ほかの生き物も来れるようにしてほしいです。マインクラフトの空間では、ひとりではなく、みんなで同時に作業ができます。ぜひ、チームの力をいかして、一緒に空間をつくってください。
最後になりますが、先生たちは、慶應大学で、「公園」をつくるための、世界でいちばん大きい3Dプリンタをつくっています。なんと30メートルもあります。みなさんが考えてくれた公園のアイディアが、この3Dプリンタで本当につくられることは、夢物語ではないんです。
いつか、ぜひ、先生たちの大学まで、この大きな大きな3Dプリンタを見に来てください。そこで、誰も見たことのない、新しい公園を一緒に考え、一緒につくりましょう。
その日まで、みなさんには、世界のいろいろな「かたち」を観察することと、人間以外のいろんな「生き物」が、その「かたち」と、どういう関係をもって生きているか、行動しているかを、自分で探求をする勉強を、続けていってほしいなと思っています。
「3Dプリンタ」という道具は、これから、「生き物」と「かたち」を、新しく結び付けなおすためのものになっていきます。こうした道具を活かして未来をつくっていくためには、普段から、「生き物」と「かたち」の関係に目を凝らしていくことが欠かせないんです。世界を「かたち」として見つめなおすことは、いまからでもできます。
ぜひ、たのしんで、まなんでいってください。
田中先生の研究室で開発中の30メートルの巨大3Dプリンタはこちら。
この授業は、「ありえる都市」の形を探求するリサーチプロジェクト「METACITY」と連携して企画されました。
協力:株式会社幕張メッセ