WORKSHOP TITLE

えんげき作品をつくる

TEACHER

関美能留先生

演出家

REPORT

プロローグ

今回の「えんげき作品をつくる」の授業は隔週で5回連続行われ、その後2日間のリハーサルを経て本番という流れでした。誰1人として知らないバラバラの学校から小学3年生から5年生までの男女10名が集まりました。

 

今回の先生は演出家の関美能留先生。グレーの長髪に、黒い服を纏い、眼光鋭い風貌に教室に緊張感が走ります。助手を務めるのは関さんが主宰する劇団「三条会」所属の俳優、大谷ひかるさんです。ときに助手として関さんをサポートし、ときに大きな小学生として参加者を盛り立てます。
まずは自己紹介をして、身体を動かしながら緊張をほぐしていきます。あんなにぎこちなかった空気があっという間にざわざわし始めてきました。すぐにうちとけ 最初の休憩時間に入ると参加者たちから「関さーん!関さーん!」と先生は引っ張りだこ。ゆっくり休憩も出来ないくらい大人気です。

ダイアローグ

5回の授業で関先生は一人ひとりの個性を見極めながら、小学校の授業での出来事や流行ってる歌、休み時間の遊び方など参加者の日常生活を聞き取ります。その出来事を基に、歌を歌ったり、ダンスをしたり、早口言葉を言ったり、ジェスチャーをしながら、回を重ねる毎にみんなのチームワークが良くなっていきます。

ただ、関先生は中々本番でやる「えんげき」の事は話してくれないので、本番に近づくにつれ何を演じればいいのか、そのためにどんな稽古を詰めばいいのかわからず少しずつ不安になっていきます。「先生、本番はどんな事するんですかー?」「僕は何の役ですかー?」「会場を下見しに行きましょう!」など矢継ぎ早に質問が投げかけられても、関先生は常にマイペース。「大丈夫、大丈夫。心配する事はないから。」と答えます。

最後の授業になってやっと本番でやる事を発表しました。まず1人ずつ舞台の中央で挨拶してから、全員で唄を歌います。その後、学校の授業という設定で3年生、4年生、5年生と分けてチェーホフの「三姉妹」の台詞を言っていきます。それが終わるとサイコロを振り、出た目でやる事を設定して即興で応えていきます。最後に全員で「三姉妹」の台詞を朗読して終了。参加者の学校での様子とそれを練習していたワークショップでの様子が組み込まれたストーリーです。今までニコニコしていた顔が、やる事が分かるとピリッとした表情になっていきました。あとはリハーサルと本番を残すのみ。

リハーサル

本番の前々日と前日の2日間、大きなホールでリハーサルを行いました。いつもの小さな教室とは違い、大きなホールになると元気すぎる参加者達も少し硬くなり、声も小さめです。大きな声を出す遊びをしたり、身体を動かしながら徐々に慣らしていきます。立ち位置などを確かめながら本番さながらのリハーサル。さぁー、本番はどんな「えんげき」になるのでしょうか。

本番

同じ学校のクラスメイトと錯覚するくらい仲良くなった参加者ですが、今日の本番で最後となります。始まる前に関先生がお客様や保護者に向かってご挨拶。「演劇発表会というと、何かの物語の何かの役になりきって台詞を言う一般的な演劇が行われると想像されている方が多いかと思いますが、今日の舞台では今までの授業でやってきたことをそのままお見せします。いつもと違う表情を見せるかもしれないし、緊張して上手く表現出来ないかもしれません。でもそれもそのまま出したいと思います。照明を当てて貰いながら舞台に立つなんて中々ない経験だと思いますので少しでも何か持ち帰って貰えたらと思います。」

本番は見事な程、大きな声で、笑顔で、持ち前のチームワークで戸惑ってる人がいたらみんなでフォローしながら眩しい程のエネルギーを発して走りきりました。全てを出し切った素晴らしい「えんげき」でした。関先生は、この発表会で、得意不得意など一人ひとりの個性を認めること、そして、日常生活の中でも家庭や学校生活などの状況や場面に合わせて異なる振る舞いをしていることが、舞台で演じることにもつながっていることに気づいてもらいたいという思いでこの物語を組み立てました。すごろくの場面では、お題に対して即興でパフォーマンスをするのでリハーサル通りのことはできません。思い通りのパフォーマンスができなくても舞台上でそっと大丈夫だよと語りかけているような関先生の姿が印象的でした。

エピローグ

本番が終わった後に、関先生が主宰する劇団「三条会」の公演があったので、参加者はみんな保護者と一緒に残って観劇していました。三条会の演劇では実は関先生の仕掛けがあって、劇中の台詞にあのチェーホフの「三姉妹」の台詞が入ってました。

▲三条会公演『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき』より

自分達が授業の朗読という設定で読んでいた台詞を目の前で本物の役者が演じています。自分たちは自分たちで精一杯演じた達成感と本物の役者が演じるとこうも凄みが出るのかという圧倒的な存在感をあの瞬間同時に感じたんじゃないでしょうか。関先生の粋な参加者達への最後のプレゼントでした。この後みんなはお別れの挨拶をし、いつもの生活に戻るでしょうが、この熱い夏は心のどこかに常にあり続けるんではないでしょうか。この授業をきっかけにいつか役者や演出家になる人が出てくる事を楽しみにしてます。

Text: Mitsutaka Kansaku

写真

関美能留さんのプロフィール

劇団三条会 主宰・演出家。1972年、埼玉県上尾市生まれ。千葉大学園芸学部中退。1997年から2014年まで、千葉市を拠点に演劇活動を行う。現在の拠点は、東京を中心に模索中。2004年、第3回千葉市芸術文化新人賞受賞。 https://www.sanjoukai.jp/

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