踊りながら身体の隅々に意識を巡らせる
吉開菜央先生による連続ワークショップの第1回目ではとにかく身体を動かし、踊りながら普段は意識しない身体の感覚に目を向けていきました。
吉開先生、参加者、スタッフそれぞれが自己紹介をし終えたら、早速体を動かしていきます。追体験したい方はぜひ、読みながら身体を動かしてみてください。
まず肩幅くらいに足を開いたら、顔から手足の先まで、全身の筋肉に目一杯の力を入れてスッと力を抜く。顔は大きなあくびをするように、肩をぎゅっとあげて、手のひらを開きながら。それを何度か繰り返していくと、身体中に血が巡り、筋肉が緩んでくるのがわかります。そしてその血の巡りを意識しながら身体を動かしていきます。最初は背骨ひとつひとつ、それから肩甲骨、肋骨、骨盤へと「骨」に意識を向けて身体を動かしていきます。
次に、両手足を大の字に思い切り伸ばします。他にも右手と爪先、つむじと中指、両手首と肩甲骨の間など、様々な「間」を意識して伸ばしていきます。
今度は身体の「重さ」を意識して身体を動かしてみましょう。力を入れるのではなく、腕の重さを利用して腕をぐるぐると回してみたり、重心を移動させながら足の爪先、踵、土踏まず、側面と普段は地につかないところを使って、足の裏の感覚を拡大したり、シコふみの体勢をとりながら、呼吸に合わせて身体を上下させたり。ここまでのように身体を動かしていったところ、自然と普段は決してしないような動きが生まれていました。
一旦休憩を挟んだら、今度は先生を囲んで円になり、先生の指示に従って身体を動かしていきます。ただ、その指示は抽象的。例えば次のようなものです。身体の中の大小様々な曲線を見つけるように、次に円描くように、身体の重さを意識して、それを徐々にテンポアップして。手を心臓からなるべく遠くに、周りの空間にも意識を向けて、肉が骨を掴んで動かすように。これらの言葉を手がかりに、それぞれの感覚を研ぎ澄ませて身体を動かしていくことが大切になります。この段階まで至ると、参加者の動きは、まるでコンテンポラリーダンスを踊っているかのようになっていました。
それぞれの踊りが出来上がってきたら、それらを共鳴させていきます。円を崩し入り乱れながら、自分の身体の行きたい方へ、動きたいように、かつ周りの人の動きを取り入れながら踊ります。自分だけでは思いつかないような動きも付け足されることで、身体がさらに自由になるような感覚がありました。
最後は椅子と共に踊ります。初めは普段のように椅子にお尻をつけています。しかし、腕を椅子に絡めたり、椅子の重心を偏らせてぐらぐらとさせたりとしているうちに、椅子の脚の下に潜り込んだり包み込んだりと、徐々に椅子は座るものという概念を超えた踊りにまで発展していきました。人体と違って椅子は冷たくて、硬く直線の多い無機物ですが、一緒に踊るうちにどこか柔らかさのようなものを感じさせました。
言葉にならないけど確かにある感覚、言葉にする前の感情=情動
映画のワークショップなのになぜ踊り?多くの人はそう思うでしょう。実際、後で感想を共有したときに、多くの参加者が最初は戸惑った、羞恥心があったと言っていました。しかし、ここまで一通り踊ってみると何故だかわかるような気もしました。今回、筋肉・骨ひとつひとつの動きを意識し、皮膚の感覚を研ぎ澄ませて踊りましたが、その中で身体の感覚の解像度が上がっていくように感じられたからです。映画を見終えた後、帰りがけの景色がいつもとは違って見える、そんな感覚です。この感覚を言葉で表すのは難しいですが、先生はこのような感覚が大切だとおっしゃっていました。言葉にならないけれど確かにある感覚、言葉にする前の感情、自分の感覚にダイレクトで近いものを吉開先生は「情動」といいます。この情動を自身の制作を行うときも大切にしているそうです。第1回目のワークショップでは自身の感覚を研ぎ澄ませる方法を学ぶことができました。
吉開先生の作品を鑑賞する
第2回目のワークショップでは吉開先生の作品を鑑賞し、その制作背景や、方法論について学びました。吉開先生は自身が映画制作を行うに至った経緯をその時その時に制作した映画を紹介しながらお話してくださいました。
最初にみたのは吉開先生が大学院生の頃に制作したショートフィルムです。その映画の内容を交えながら、映画制作を行おうと思ったきっかけについて話していただきました。第1回が踊りから始まったことからもわかるように、吉開先生はダンサーや振付家としても活躍しています。学生時代はバレエやダンスを学んでいましたが、お風呂で踊る映像作品を作りたいとの思いから映像作品を手掛けるようになりました。その後、大学院へと進み、音楽を使わずにダンスの映像作品を作るという自分なりのスタイルを作りあげていったそうです。その後、学生時代にダンサーとしてミュージックビデオ(MV)に出演したことが縁でそのときの制作会社に勤めMVの制作に携わりました。しかし、MVは楽曲から映像のインスピレーションを得たり、ビートに合わせてカットをつなげたりしていて、「楽曲」という手掛かりを基に出来上がった映像に対してどこまでが自分の作品といっていいのかわからないと思い始めたそうです。そこで、大学院生の頃からテーマにしていた、予め用意された音楽に頼らない映像作品をつくるためにどうしたらいいのかを考えるようになり、映画制作へとたどり着きました。
今回のワークショップでは、自転車をテーマにした短編作品やMOOSIC LABで上映された『ほったまるびより』(2015)など、音や映し出される人物の肌など聴覚的にも視覚的にも質感が印象的な作品を鑑賞しました。音響の効果でその質感が高まるような場面が何度もありました。
映画はリズムに乗せた音付き紙芝居
吉開先生の映画はいわゆる起承転結のはっきりした物語ではなく、自身の感じ取ったもの、イメージしたものから構成されています。そのためストーリーよりも先に、絵や音で断片的なイメージを描き出すそうです。吉開先生の場合、そうしたイメージをどのように組み合わせていくのかによって、物語が生まれていきます。そこから編み出されたのが紙芝居で脚本をつくるという方法です。描き出したイメージを並び替えながら試行錯誤できる紙芝居はとても使い勝手がよく、他の人に説明するときにも便利で、それ以来この方法を用いて制作を行うことが多いそうです。また紙芝居には音の要素も含まれています。MV制作がきっかけだった先生にとっては、音もやはり重要な要素だそうで、その意味でもやりやすい方法なのだそうです。といっても、それは物語の説明、セリフが中心というよりはもっと抽象的な音のイメージから入るとのことでした。
このように映画制作を行うことから、吉開先生にとって映画は「リズムに乗せた音付き紙芝居」。たとえ断片的なイメージであっても、それをつなげてしまえば、みる人がそこに解釈を生み出してくれる。むしろそれを逆手に取って謎を残した方が想像の余地があっていいと考えているそうです。
お試し編集
ここまで、第1回では身体を動かし踊ること、第2回では作品鑑賞を通して吉開先生の方法論を学ぶことができました。この後はその方法論に沿ってお試し編集を行うことになりました。その課題は10枚の断片的なイメージを集めてiMovieで編集、音もつけて一つの音付き紙芝居をつくるというもの。最初に吉開先生にお手本を見せていただき、同じ画像を使っていても並べ方を変えるだけで物語の展開が変わってくるということを実感しました。先程の映画の捉え方にもつながっていきますが、人は絵と絵のつながりを解釈して物語を見出してしまう生物。つまり、イメージは断片的でもいい。how to的で順序だったものよりもイメージとイメージの間を想像するほうが楽しい。謎を配置したほうが面白い。このようなことを改めて確認することができました。またiMovieの使い方から発想構想の方法など技術的なことについても教えていただきました。
そして第3回目のワークショップは参加者がつくってきたものを鑑賞するところから始まりました。発想の仕方、好きなテイストなどそれぞれの個性がはっきりと現れていたのが印象的でした。
〇〇の存在そのものを映像で残す
お試し編集を終えたら、いよいよ本制作です。吉開先生から出されたテーマは「〇〇の存在そのものを映像で残す」というもの。そして制作を進める上でのアドバイスもいくつかいただきました。
一つめは自分が直感的にいいなと思ったものをたくさん撮ること。先に頭で考えてから撮ってしまうと、どうしても紋切り型になってしまいがちだからです。
二つめはその中で自分らしいテイストを探ること。お試し編集でもそれぞれの個性は十分に現れていたのでそれを大切にしてほしいと言われました。
三つめは、沢山の要素を集めること。映像だけではなく、取材やフィールドワークなども行うとテーマの説得力が増すからです。
またそれと関連して、単に映像として面白い、美しいというのではなく、〇〇の存在についてのドキュメンタリーのような映像にすることを意識してほしいと言われました。正統派のドキュメンタリー番組のような客観的なデータに基づいたものや、ある主張を導くといったものではありません。その存在について、自分の身体で感じた感覚そのもの、先ほどの言葉でいうなら情動を他人に見せるという意味でのドキュメンタリーです。
撮る、つなげる、見せる、撮る……
第4回目、第5回目のワークショップではそれぞれが撮ってきた映像やテーマにしたいことなどを発表し、吉開先生に講評していただくという形で行われました。
第4回目は主にテーマに関する話が多く出てきました。参加者は動画を撮る他に、前回行った音付き紙芝居や文章を作ってくるなどそれぞれの方法論で制作に取り掛かっていました。それらを全員で鑑賞した後、それぞれのテーマを決め、深めていきました。例えば、単一のテーマに絞り込むのではなく、そこに他の要素をあえてつけ足してみることや、一つのものを様々な角度から見せる方法、説明的にならず想像の余地を残す方法など、テーマや内容に関するものなど。また撮りたい映像の撮り方、効果的な見せ方、編集方法など技術的なものなどそれぞれに合わせたアドバイスを貰いました。
第5回目では撮影も進み、特に技術的な話や、鑑賞者を意識した映画の見せ方についてのアドバイスを多くいただきました。さらに本来であれば第5回目で終わるはずでしたが、急遽オンラインでもう1回講評を行うことになり、先生と参加者ともにそれぞれがつくりたいものを目指して制作を進めていきました。このように3回に渡って、撮影して編集したものを見せ、アドバイスを貰い、さらに撮って編集を繰り返し、多くの参加者が上映会の直前まで作品の細部まで詰めていきました。
上映会
上映会は8月21日に行われました。これまで行ってきたワークショップの集大成のお披露目です。吉開先生、参加者、スタッフは上映会前に集まり、音量の調整などの準備を行い、上映会に臨みました。上映会では作品を流した後、制作者本人が舞台に出て、吉開先生の質問に答える形でそれぞれ5分ほどのアフタートークも行いました。作品そのものだけではなく、来場者に向けて本人の言葉で作品について語ることは貴重な体験になりました。
最後に、言葉だけでお伝えすることは難しいですが参加者それぞれがつくった作品について紹介していきます。
I(1)さん『波の音が聞きたい』
波の音をテーマにした作品です。千葉市生涯学習センターで展示されていた戦時下の兵隊の靴や帽子、加曽利貝塚などの歴史資料から波の音が聞こえてきたという経験から、波の音からそれぞれの記憶を呼び起こせるのではと思い、このテーマを選び、撮影を始めました。そして家族とともに海に波の音を聞きに行ったそうです。海の近くのお店で買った真っ赤なトマトを齧りながら波の音から自身の記憶をたぐり寄せようとしたのですが、実際にはあまり呼び起こされることはなかったそうです。I(1)さんの作品では晴れた日の海とその周辺の情景とともにその一連の経験が描き出されていました。
I(2)さん『ふう』
I(2)さんが撮りたい要素を探る中で選び出したテーマはトイレ。街が人で溢れかえる中トイレだけは1人になることができる、安心できる場所であり、そうしたトイレの特別な存在感を残したかったそうです。そこで試しに、会社のトイレで撮影をしたそうですが、どうしても盗撮感が出てしまうことに気づきました。そこで家のトイレで撮影を始め、最終的にそれを作品化しました。防水ケースに入れたスマホを便器の中に入れ、水が流れていく様子をとった映像がとても衝撃的です。他にもトイレの中の様々な質感、部屋着を着たラフな姿のI(2)さんがトイレを綺麗に磨く様子などが不思議な雰囲気をつくり出していました。
I(3)さん『カウンター』
I(3)さんは西千葉のムーンライトブックストアで働いているWさんをテーマに選びました。その人柄に惹かれたというI(3)さんはカウンター越しに見えるWさんの身振りやお店での振る舞い、インタビューしている様子やお店でお酒を酌み交わしている映像を撮ってきました。また、その映像とともに流れるI(3)さんの朗読からWさんの性格やこれまでの人生についても伝わってきました。会社勤めをしていた頃は営業から役員まで上り詰め、会社も立ち上げたこともあり、今では本屋の店番をしながらコーヒーを入れているWさん。自分の好きなことを貫き、シャキッとしてなくてなよっとしてはいるけれど、何かもっているものがあるといったギャップのある人柄に憧れるというIさんの気持ちが伝わってくる作品でした。
Kさん『SANPO』
Kさんは自分の飼っているパピヨンのパピーをテーマに撮影をしていきました。犬の匂いや手触り、寝ている様子、空っぽの餌の器をカリカリとする音、呼吸の音、散らばった餌を食べる音といったパピーに関する映像や、家や散歩道といった犬の生活環境など、様々な角度で犬とその暮らしぶりを撮っていました。また映像を見た吉開先生や参加者の中からの、家の様子をもっと撮ってくるといいのではというアドバイスを受け、その映像もどんどんと増えていきました。家の床や壁の木目、扇風機、妹が持っている沢山のぬいぐるみ、犬を飼い始めた頃の日記の朗読、沢山の水槽とその中で泳ぐ魚たち、犬を描いた絵など、Kさんの家の独特の生活感はとても興味をそそられました。出来上がった作品では、Kさんがつくった歌と散歩道から始まり、先程のような犬とその生活の様子が描かれています。そして最後も散歩道で締めくくられていて、Kさんの犬との生活が今後も続いていくことを想像させるものでした。
Sさん『あしダンス』
撮影を始めるに当たって何から撮ったらいいのかわからず悩んだというSさんはふと気になった足を撮ることにしました。最近足がポキポキなることがきっかけだったそうです。Sさんは自分の足の皺や剥げた皮などの質感であったり、足の様々な動き、旦那さんの足などを撮ってきていました。講評を重ねる中で足というテーマから旦那さんについてや関係性にも視野が広がっていきます。そして最終的にはSさんと旦那さんの足を主軸に2人の関係性が伝わってくるような作品に仕上がっていました。軽快で勢いのある太鼓の音に乗せつつ、終始とても綺麗な印象のある映像でした。しかしそれだけではなく、爪切りで切った自分の足の爪を水にいれて互いに飲み合うといった、少し生々しいドキッとするような映像や、足でフォークとナイフを使いガラスの器にのせられたバナナをきるというシュールな映像などがアクセントとなっていて、単に美的なだけではないSさんらしい表現になっていました
Hさん『園生の森』
Hさんは中学生で、このワークショップの最年少の参加者です。テーマに選んだのは小学生の頃、友達と遊びに行ったことのある園生の森です。先生からテーマを伝えられたとき、ふとこの場所が頭に浮かび撮影しに行ったそうです。街中での生活とは違う自然の中の心地よさみたいなものを表現したいというHさん。実際に撮ってきた映像を見てみると手元のぶれを取り入れたアグレッシブなカメラワークが特徴的で先生も他の参加者もとても驚かされました。しかしその作品からは自分の足で森の中を歩き、時に疾走しながら辺りを見まわすHさんの視点がありありと表現されていました。
Yさん『おばあちゃんとの思い出2010ー2016』
Yさんはおばあちゃんと過ごした頃の記憶をテーマにしました。Yさんのおばあちゃんは故人で2020年に7回忌を迎え、遺稿集を出版することになりYさんも寄稿する予定でしたが、なかなか手が進まなかったそうです。そこでこのワークショップの課題を通しておばあちゃんとの思い出を作品にしようと思い立ったそうです。息子さんの弾くちょっと拙いピアノの音にのせ、過去に撮った映像や写真を見返すYさんの視点を追体験できるような作品です。また作品には今を生きるYさん家族の包み隠さない普段の様子も映し出されていて、普通だったら絶対に見ることはない他人の生活を覗き見るようで何だか不思議な気分になりました。ありのままの他人の生活、誰かとの思い出の存在を感じることのできる作品でした。
Text: Shotaro Nemoto


