パッと消えたり、現れたり。大きくのびたり小さくちぢんだり。
いつも傍にいるけど、どこか不思議な「影」の世界を楽しむ、
川村亘平斎さんの授業です。
ここから始まる
暗幕が下ろされ外光の入らない部屋。
白い大きなスクリーン。
異国情緒あるインドネシアの影絵人形と
絶滅した動物や見たことのない奇妙な生き物の図鑑。
いつもの学校とは少し違う教室に
ひとり、ふたりと参加者が集まります。
さあ、どんな授業が始まるのでしょうか?

部屋を飛び回る影とスクリーンに舞う影
まずは、川村先生の影絵パフォーマンスからスタートです。
合図と共に明かりが消え、部屋は真っ暗に。
音楽が流れ始め、聞いたことのない不思議な言葉の謡が聞こえます。
一瞬にして、教室の空気が変わりました。
スクリーンに眩しい光が踊ったかと思うと、葉脈のような美しい影絵が映されます。
透かし模様の入った扇のようなものと小型ライトを手に、川村先生が教室を練り歩き、
影が天井、床、机、と縦横無尽に空間を覆います。
目には見えないけれど、参加しているみなさんのドキドキとワクワクが伝わってくるようです。

先生が教室を一周すると、 一転、陽気な音楽が流れます。
スクリーンには大股でのっそり歩いてやってくる人の影。
ラップのような歌を口ずさみながら、こちらにお尻を向けてノリノリでダンスをし始めます。が、振り向くと人ではない!ゴリラ?お猿?


「はい、改めまして、みなさんどうもこんにちわ!」
「…、コンニチワ。」
「なになに!さっきクスクス笑ってたくせに。随分静かじゃないの!もう一回ね!こんにちわ!」
「こんにちわ!」
「ああ、いいです、いいです!えー私ですな、川村亘平斎さんの影絵ワークショップの案内人を務めさせていただきます、猿のニシオカと申します。よろしくお願いしますね!」
「…猿??」
猿にしては密度あるニシオカさんの顔立ちに、小さな疑問の声がちらほら。
「猿だよ、猿に見えるでしょ?」
「えー、ゴリラ!!」
スクリーン越しに参加者とニシオカさんが言葉を交わし始めます。
「今日はしばらくの間ね、みなさんと一緒に影絵で遊んでみようかなと思うんですがね。それでね、今日やることってのがね…。えーっと、なんだっけ?さっきさんざん打ち合わせしたのに…。私ね、物忘れがひどいもんで。何やるんだっけか?」
そこへもう一人(一匹)の 頼れる助っ人、 しっかり者のカエルのヤマダさんが登場します。

「ちょーっともう!ニシオカさん!あなたがそんなだからね、私が出てこなくちゃいけなくなるじゃないですか!歌って踊るのはいいんですがね、今日やる内容を忘れちゃ困りますよ!集まったみんなと一緒にこの辺りにむかーし住んでいたなぞの生き物たちを作って影絵の中で写してみようって、そういう日だったじゃないですか!」
しっかりと今日の授業について説明してくれるヤマダさん。さらに、
「スクリーンの裏側で、私たちがどうやって映されているのか、みてみたくないですか?
と見事な進行っぷり。
促されて、スクリーンの裏側を覗くと、猿のお面をかぶり、手に持ったカエルの人形を操作して、声色を変えながら、川村先生が一人二役をこなしていたことがわかります。

川村亘平斎さん、登場!
照明がつき部屋が明るくなると、改めてスクリーンの前に、ニシオカさんでもなくヤマダさんでもなく、川村亘平斎さんとして、先生が登場します。

参加者に影絵人形をさわってもらいながら、人形は「牛の皮でできていること」、「インドの神様がモチーフになっていること」、「インドの神様は、実は日本に伝わって、天狗や風神雷神、閻魔大王になっていること」などを教えてもらいます。(神様って、実は繋がっているんですね。)


影絵人形のことに少し詳しくなった後は、人形の動かし方や、光に近づくと大きく、離れると小さく映ることなどを体験してみます。


「幻の生き物」をつくろう!
そして、いよいよ影絵制作に。
千葉県に昔いたとされるナウマンゾウや古代ザメ、加曽利貝塚の話、古代生物や遠い未来の予想生物が載った図鑑など、「この場所にいたかもしれない幻の生き物」を想像しやすいようにと集めた資料を紹介します。

次に、川村先生が制作のデモンストレーションをしてくれました。鮮やかな手捌きで、あっという間に動物の形を切り抜いていくと会場からは感声が上がります。


大きな厚紙が配られ、まずは生き物のアウトラインを描きます。
図鑑片手に黙々と描き進めたり、
イメージが浮かばないとスタッフに相談したり
と、様々です。
気軽に先生に相談する参加者もたくさんいました。


下書きを終えると、カッターやハサミで切り抜いていきます。穴あけポンチなど普段馴染みのない道具も用意されました。


最後は支柱をつけて完成です。

素早く2体作り上げたり
スクリーンに写しながら調整したり
内心ハラハラするスタッフを尻目に細かい爪や牙をしっかり切り出したりと
全員が目を見張る集中力です。
休憩時間もほとんどの参加者が、制作に没頭。
たくさんの不思議な生き物たちが、堂々と誕生しました。
影絵たちのおしゃべり
フィナーレです。
作り上げた生き物に成りきって、ニシオカさんとおしゃべりをします。
「あなたお名前は?」
「何ものですか?」
「どこからきたんですか?」
ニシオカさんの質問をきっかけに
影絵たちの生態が明かされていきます。




鋭い牙や角を持つ生き物も多く
なぜか皆一様にニシオカさんに襲い掛かります(笑)。
「牙がすごいですなあ」
「あいたたた、落ち着いて話しましょうよ!」
「え、肉食!?私のこと食べたりしないでね!」
ニシオカさんの体を張った進行に笑いが起きます。

対話の中で、影絵たちにストーリーやキャラクターが加わり
より生き生きとしていきます。
「その頭の丸いのはなんですか?」
そのうち、参加者の皆さんからも質問が上がります。

全ての影絵の自己紹介が終わり、明かりをつけます。いつもの世界に戻ってきました。
先生からは、家でも、スマホのライトを使って、影絵やってみてねと一言。この世界の続きを家でもやってくれたら嬉しいなと思いました。
最後に参加者から「集合写真をとりたい!」という声が上がり、みんなで「記念撮“影”」をしました。

「影」は、従属的で負のイメージさえありますが
この授業では、一転して影がスポットライトを浴びる主役となりました。
影だからこそ入り込める、幻想の世界に触れられたのではないでしょうか。
見て聞いて手を動かして、全身で影と遊んだ2時間半。
この体験がひっそりと、でもしっかりと、まるで影のように
みなさんの中で生き続けてくれたら、と帰る背中を見送りました。
Text: Natsuki Mio